試験研究の成果

【産業廃棄物税活用事業】
イチゴの養液栽培に利用可能なきのこ廃菌床培地

分  野
野菜
品  目
イチゴ
技術概要
 宮城県のイチゴの作付面積は136haで、その内の大半の111haが養液栽培です(令和4年産野菜生産出荷統計)。イチゴの養液栽培の培地は主に海外産ヤシガラを使用していますが、年々価格は上昇し経営を圧迫しています。
 また、宮城県は全国上位のきのこ類生産県であり、きのこ類栽培では「菌床栽培」が一般的に行われていますが、栽培後の菌床(廃菌床)は利活用の選択肢が少なく、処理方法が課題となっています。
 そこで、廃菌床を堆肥化処理した廃菌床培地をイチゴの養液栽培に利用した際の生育・収量への影響を調査したところ、良好な成績が得られました。

  1. ヤシガラ培地の代わりに廃菌床50%培地(廃菌床とヤシガラを体積比で1:1に混和したもの)及び、廃菌床100%培地を使用してイチゴの養液栽培を実施すると、ヤシガラ培地と比較して生育は同等か旺盛になります(表1)。
    表1 生育調査結果、開花始期
    試験年度 品種 試験区 調査日 草高(cm) 第3葉(cm)   開花始期
    葉柄長 葉身長 葉幅 頂花房 第1次腋花房
    令和2年 とちおとめ 廃菌床50% 令和3年1月4日 16.8 7.2 5.6 4.6 10月18日 12月17日
    廃菌床100% 19.7 8.6 5.7 4.7 10月17日 12月18日
    ヤシガラ 16.4 8.0 6.0 4.9 10月12日 12月15日
    令和3年 にこにこベリー 廃菌床50%2年連用 令和4年1月6日 19.8 11.5 7.1 5.2 12月5日
    廃菌床100%2年連用 25.3 13.5 7.4 5.5 12月2日
    ヤシガラ 19.5 11.3 7.3 5.6 12月1日
    令和4年 にこにこベリー 廃菌床50%3年連用 令和5年1月6日 27.6 17.0 8.7 6.2 10月20日 12月5日
    廃菌床100%3年連用 25.0 15.4 8.0 5.9 10月14日 12月5日
    ヤシガラ 25.6 17.0 9.1 6.6 10月20日 12月5日
    令和5年 にこにこベリー 廃菌床50%4年連用 令和6年1月16日 22.0 13.9 7.0 5.6 10月10日 12月11日
    廃菌床100%4年連用 22.8 13.6 6.7 5.3 10月10日 12月4日
    ヤシガラ 18.5 11.4 6.1 4.7 10月10日 12月4日
     ※令和2年度試験:採苗日:6月24日、夜冷短日処理:8月11日~9月2日、定植日:9月3日、所内鉄骨ハウスで栽培。
     ※令和3年度試験:採苗日:6月28日、夜冷短日処理:なし、定植日:9月22日、所内パイプハウスで栽培。
     ※令和4年度試験:採苗日:7月7日、夜冷短日処理:8月8日~9月5日、定植日:9月6日、所内鉄骨ハウスで栽培。
     ※令和5年度試験:採苗日:6月27日、夜冷短日処理:8月8日~9月5日、定植日:9月6日、所内パイプハウスで栽培。
     ※開花始期は全体の30%が開花した日

  2. 頂花房、第一腋花房の開花始期はヤシガラ培地と差がありません。年内商品果収量、早期商品果収量、総商品果収量はヤシガラ培地と同等の収量を得られます。廃菌床培地は2年から4年連用しても生育や収量に影響はありません(図1、表1、2)。
     
    図1 廃菌床100%4年連用区(写真左)とヤシガラ区(写真右)(令和6年3月撮影)


    表2 株当たり期間別商品果収量、平均1果重
    試験年度 試験区 年内商品果収量(~12月)   早期商品果収量(~2月)   総商品果収量(~6月)   商品果
    平均1果重
    (g/個)
    果数
    (個/株)
    収量
    (g/株)
    果数
    (個/株)
    収量
    (g/株)
    果数
    (個/株)
    収量
    (g/株)
    令和2年 廃菌床50% 8.3 ns 183.2 ns 19.1 ns 333.0 ns 49.2 ns 854.1 ns 16.4 ns
    廃菌床100% 9.9 194.8 22.3 363.3 49.7 833.8 16.8
    ヤシガラ 8.8 178.3 18.5 306.8 51.2 887.6 17.3
    令和3年 廃菌床50% 0.9 ns 20.1 ns 12.4 ns 217.3 ns 50.9 ns 705.0 ns 13.8 ns
    廃菌床100% 1.6 32.9 14.2 240.6 53.1 709.8 13.4
    ヤシガラ 1.7 36.5 15.4 256.0 53.1 718.0 13.5
    令和4年 廃菌床50% 10.7 a 159.9 a 26.6 ns 381.5 ns 62.8 ns 817.5 ns 13.0 ns
    廃菌床100% 10.7 a 165.4 a 27.7 404.2 65.2 862.1 13.2
    ヤシガラ 8.2 b 126.1 b 26.5 374.5 66.2 842.4 12.7
    令和5年 廃菌床50% 15.3 ns 232.5 a 32.0 ab 464.4 ns 88.1 ns 1103.0 ns 12.5 b
    廃菌床100% 14.8 229.6 a 35.1 a 521.3 89.0 1175.8 13.2 ab
    ヤシガラ 13.8 205.4 b 28.2 b 437.6 85.9 1169.4 13.6 a
     ※Tukeyの多重比較検定により、異なるアルファベット間に5%水準で有意差あり(n=3)
     ※商品果:5g以上の正常果と9g以上の乱形果
     ※供試品種、耕種概要は表1と同一

  3. 糖度、酸度、硬度についてはヤシガラ培地と差がありません(表3)。
    表3 果実特性(令和5年度試験)
    品種 調査区 果実特性
    糖度(Brix%) 酸度(%) 硬度(gf)
    にこにこベリー 廃菌床50%4年連用 9.8 0.88 108.0
    廃菌床100%4年連用 9.7 0.86 107.4
    ヤシガラ 10.0 0.88 114.2
     ※糖度、酸度、硬度は令和5年12月から令和6年5月までに各月9果調査した値の平均値
     ※糖度は、アタゴ社製デジタル糖度計で測定
     ※酸度は、クエン酸換算値の滴定酸度
     ※硬度は、アイコーエンジニアリング社製デジタル式加重測定器2mmΦ円柱
     ※耕種概要は表1と同一


  4. 廃菌床の購入コストは、ヤシガラ培地と比較して安価に抑えることができます(表4)。
    表4 単価及び、10a当たり培地使用量、金額(参考)
    培地 単価(円/L) 使用量(L/10a) 金額(円/10a)
    廃菌床50% 29 20,000 580,000
    廃菌床100% 14 20,000 280,000
    ヤシガラ 44 20,000 880,000
     ※亘理型養液栽培槽使用
     ※亘理型養液栽培槽の容積は20リットルで算出
     ※10a当たり亘理型養液栽培槽は1,000個使用を想定
     ※廃菌床単価:令和5年購入時の価格で算出(2,000リットル/27,500円)
     ※ヤシガラ使用量は充分に吸水した後の体積で算出
     ※廃菌床の堆肥化処理コストは含まれない
     ※廃菌床50%の単価は廃菌床とヤシガラを体積比1:1で混和した際の単価を記載


※利用上の留意点
  1. 宮城県農業・園芸総合研究所内鉄骨ハウス及びパイプハウスの亘理型高設ベンチで慣行栽培に準じて養液栽培を行いました。令和5年度は水道水を原水とし、OATハウス肥料1号とOATハウス5号混合養液をA液、OATハウス2号養液をB液とした2液混合で施用しました。定植以降、養液濃度を段階的にEC=0.4~0.9mS/cmまで高め、かん水量は250~600ml/日で施用しました。栽植密度は、ベンチ間120cm、株間20cm の2条千鳥植え(833株/a)としました。温度管理は、側窓開閉温度を暖候期15~25℃、厳寒期28℃とし、11月上旬から最低温度8℃設定で暖房加温しました。電照は、11月10日から電球形蛍光灯(電球色)で1~2時間日長延長を行い、2月19日に中止しました。
  2. 広葉樹の廃ほだ木を主原料とした廃菌床は120日間の堆肥化処理で培地として使用可能となります。本試験では、マイタケ栽培終了後の廃菌床を堆肥化処理し使用しました(表5)。
    表5 廃菌床成分分析(令和3年度試験)
    堆肥化
    処理日数
    pH EC 含水率
    (%)
    全炭素率
    (%)
    全窒素率
    (%)
    C/N NH4-N
    (mg/kg)
    NO3-N
    (mg/kg)

    (mg/kg)

    (mg/kg)
    Ca
    (mg/kg)
    Mg
    (mg/kg)
    CEC
    0日 4.2 0.9 67.1 15.2 0.5 31.1 140.1 0.0 2006.7 2992.7 2806.7 1148.3 24.5
    120日 6.2 2.5 27.4 34.5 1.8 19.1 2061.0 46.0 6902.7 9072.7 9572.3 4493.0 45.0
     ※pH、ECは現物試料1:蒸留水10の比率で測定
     ※含水率は現物試料と乾物試料の値で算出
     ※有機物含量は全炭素量に1.7(有機質量への変換に用いる係数)をかけて算出
     ※全炭素•窒素、塩基(P、K、Ca、Mg)は現物試料あたりに換算
     ※NH4-N、NO3-Nは風乾試料抽出物の測定値を現物当たりに換算
  3. 廃菌床を培地利用するための堆肥化処理は、きのこ栽培終了後の廃菌床を山積みし2週間に1度、加水と切り返しを実施します。堆肥化処理は窒素分の添加は行わず、期間は120日間を目安とします。堆肥化処理の際に微生物の分解による発酵熱が発生するため、充分に堆肥化が進み、発酵熱が収まった廃菌床を培地として使用してください。本試験では所内パイプハウス内で4月から8月の約120日間の堆肥化処理を実施しました(図2)。
     
    図2 堆肥化処理前の廃菌床(写真左)と堆肥化処理後の廃菌床(写真右)

  4. 堆肥化処理終了後、イチゴに登録のあるくん蒸剤を用いてくん蒸処理を実施します。
    イ 廃菌床を高設栽培用の栽培槽に充填前:「土壌くん蒸<床土・堆肥>」での使用方法を参照します。
    ロ 廃菌床を高設栽培用の栽培槽に充填後:「土壌くん蒸<圃場>」の「高設栽培等架台上の培地」に扱いが変わるため、使用の際は「使用方法」、「使用上の注意事項」を確認し遵守します。なお、令和7年2月現在「高設栽培等架台上の培地」での使用は「クロルピクリン錠剤(登録番号第17034号)」限定であり、他のくん蒸剤は使用できないため注意してください。
  5. 廃菌床培地は窒素分が多く含まれることで、イチゴの生育が旺盛になる可能性があります。頂花房の花芽が未分化の状態で窒素分の多い廃菌床培地にイチゴを定植すると、頂花房の花芽分化が遅れる可能性があるため、花芽検鏡により花芽分化を確認してから定植します。また、第一腋花房の花芽分化についても遅れる可能性があるため、排液ECを定植前及び、定植後定期的に測定し、排液ECが高い場合には給液のECを下げることで対策します。廃菌床のロットにより含まれる窒素分には差があるため、排液ECは必ず確認してください。
  6. 廃菌床培地はヤシガラ培地と同様に、イチゴ栽培を1作行うと目減りするため、次作前に補充が必要となります。
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担当部署
農業・園芸総合研究所 野菜部(電話:022-383-8135)

 宮城県農業・園芸総合研究所
  (企画調整部 企画調整チーム)
  〒981-1243 宮城県名取市高舘川上字東金剛寺1
  TEL:022-383-8118
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