試験研究の成果

ちぢみホウレンソウ栽培における播種適期の目安

分  野
露地野菜
品  目
ホウレンソウ
技術概要
 宮城県において、ホウレンソウは「みやぎ園芸特産振興戦略プラン」の県戦略品目に位置付けられており、作付面積の拡大や周年出荷体制の維持強化を図っています。その中でも、冬季に収穫出荷を行う‘ちぢみホウレンソウ’は冬場の人気商材であり、高品質な生産物を確保するため、出荷期間や選別基準(糖度8°以上)が宮城県の標準出荷規格に定められています。
 また、冬場の青物野菜としての需要が高いことに加え、農閑期における労働力の有効利用の面でも有望であるため、県内各地で生産されています。
 しかし、近年の暖冬の影響により、株の大きさが出荷規格以上となることによる減収や収穫作業効率の低下等が課題となっています。
 そこで、ちぢみホウレンソウ「寒味・極」と「雪美菜02」で、播種から収穫までに要した有効積算温度をもとに、12月10日に収穫可能となる播種適期のシミュレーションを作成しました。

 図1 「寒味・極」(左)と「雪美菜02」(右)の収穫物の様子
注)スケールバー=10cm


  1. 本試験場の露地ほ場で栽培試験を行い、調製重70gに達した日を収穫開始日とした場合、播種から収穫までに要する有効積算温度(4℃以上)は、「寒味・極」は690℃日、「雪美菜02」は723℃日であると推定されます(表1、表2、図1、図2)。
     表1 品種ごとの収穫時生育と有効積算温度(令和3年)
    播種日 収穫日 品種 調製重(g) 本葉数(枚) 最大葉長(cm) 葉色(SPAD) 有効積算温度(℃日)
    9/29 12/24 じっくり朝霧 66.5 ns 12.6 b 20.4 a 56.8 b 574
    雪美菜02 68.9 13.0 b 21.8 a 63.5 b
    寒味・極 77.8 14.6 a 18.4 b 63.8 a
    1/7 じっくり朝霧 72.2 b 13.3 b 20.3 ns 57.0 b 574
    雪美菜02 72.4 b 13.9 b 19.7 67.1 a
    寒味・極 102.3 a 16.1 a 19.4 62.3 a
    1/21 じっくり朝霧 70.1 ns 14.8 b 19.1 b 58.1 b 574
    雪美菜02 81.2 14.0 b 21.0 a 65.0 a
    寒味・極 93.6 20.5 a 17.9 b 61.4 ab
    2/2 じっくり朝霧 72.9 b 15.6 b 18.1 ns 54.4 b 574
    雪美菜02 69.6 b 15.7 b 19.2 62.1 a
    寒味・極 108.7 a 18.7 a 17.8 61.9 a
    10/7 1/7 じっくり朝霧 46.8 ns 12.5 ns 17.0 ab 61.8 b 461
    雪美菜02 57.7 12.8 18.0 a 66.5 a
    寒味・極 54.0 13.7 15.2 b 65.8 a
    1/21 じっくり朝霧 47.4 ns 12.9 ns 17.0 a 55.8 b 461
    雪美菜02 66.8 14.0 17.8 a 66.4 a
    寒味・極 50.5 14.5 13.8 b 62.0 ab
    2/2 じっくり朝霧 57.1 ns 13.6 ns 16.5 ns 55.6 b 461
    雪美菜02 68.0 14.7 18.1 65.1 a
    寒味・極 64.3 15.4 15.1 62.0 a
    注1)調査株数:24株(8株×3反復)
    注2)調製:収穫後に根部を5mm程度に切り揃え、外葉を2~4枚除去
    注3)播種・栽植様式:直播、畝間160cm、株間15cm、条間20cm、4条植え
    注4)同一の収穫日間で、チューキーの多重検定により、異なる英字間は5%の水準で有意差あり、nsは有意差なし
    注5)有効積算温度:ホウレンソウの発育零点を4℃とし、播種日から収穫日までの平均気温の積算値

     表2 品種ごとの収穫時生育と有効積算温度(令和5年)
    播種日 収穫日 品種 調製重(g) 本葉数(枚) 葉長(cm) 葉色(SPAD) 有効積算温度(℃日)
    9/19 11/14 寒味・極 67.4 ns 13.1 * 22.0 * 62.0 * 659
    雪美菜02 62.7 11.9 25.7 57.8
    11/29 寒味・極 109.3 ns 15.1 ns 22.8 * 61.7 ns 711
    雪美菜02 118.6 14.2 26.8 62.2
    9/28 11/14 寒味・極 38.4 * 11.8 * 19.2 * 59.0 ns 499
    雪美菜02 48.2 10.8 24.1 58.5
    11/29 寒味・極 75.1 * 14.3 * 19.8 * 62.3 ns 551
    雪美菜02 87.7 13.1 24.2 60.7
    12/5 寒味・極 75.0 ns 15.1 * 19.8 * 61.9 ns 552
    雪美菜02 87.3 13.6 25.2 63.2
    12/22 寒味・極 84.2 ns 17.0 ns 20.5 * 67.8 ns 578
    雪美菜02 86.3 16.5 25.4 64.7
    10/4 11/14 寒味・極 15.9 ns 9.0 * 14.8 * 55.3 ns 392
    雪美菜02 19.4 8.2 16.6 55.1
    11/29 寒味・極 55.4 ns 11.8 * 17.5 * 61.0 ns 445
    雪美菜02 58.9 10.1 20.7 59.5
    12/5 寒味・極 52.5 ns 11.9 * 17.6 * 64.4 ns 446
    雪美菜02 52.9 10.5 21.3 63.9
    12/22 寒味・極 65.5 ns 14.4 ns 17.5 * 63.6 ns 472
    雪美菜02 69.6 14.3 22.1 64.7
    注1)調査株数:36株(12株×3反復)
    注2)調製:収穫後に根部を5mm程度に切り揃え、外葉を2~4枚除去
    注3)播種・栽植様式:直播、畝間160cm、株間15cm、条間20cm、4条植え
    注4)同一の収穫日間で、t検定により*は5%の水準で有意差あり、nsは有意差なし
    注5)有効積算温度:ホウレンソウの発育零点を4℃とし、播種日から収穫日までの平均気温の積算値


     図2 「寒味・極」(左)と「雪美菜」(右)の播種から収穫までに要する有効積算温度の算出
    注1)n数=17
    注2)有効積算温度:ホウレンソウの発育零点を4℃とし、播種日から収穫日までの平均気温の積算値


  2. 有効積算温度をもとにした、宮城県の市町村で12月10日に出荷が可能なちぢみホウレンソウの播種適期のシミュレーション結果は図4の通りです。いずれの品種でも県北の内陸部では9月上中旬、沿岸部では9月中下旬が播種適期となっています。

     図3 シミュレーション結果から導き出した各市町村におけるちぢみホウレンソウの播種適期の目安
    注1)各市町村の庁舎を基準点とし(基準点の緯度、経度は地理院地図を参考)、その地点の気温のデータ(平成26~令和5年)を「農研機構メッシュ農業気象データ(The Agro-Meteorological Grid Square Data、NARO)(大野ら、2016)(https://amu.rd.naro.go.jp/)」を利用して取得し算出
    注2)播種から収穫までに要する有効積算温度(4℃以上)を「寒味・極」は690℃日、「雪美菜02」は723℃日とし、12月10日を収穫開始日とした場合の各地点のシミュレーション結果を記載、播種適期の目安は平成26~令和5年のうち最も早い日付と最も遅い日付の範囲を記載。
    注3)全農みやぎ出荷規格を参考に調製重70g以上を出荷基準とし、糖度8°以上の出荷基準は満たしているものと想定して算出。


※利用上の留意点
  1. ちぢみホウレンソウは12月~1月にかけて出荷がピークとなるため、播種適期のシミュレーションでは12月10日を収穫開始日と設定して算出しました。
  2. 本研究は、令和3年と令和5年に宮城県農業・園芸総合研究所内の露地ほ場で実施しました。試験は株間15cm、条間20cmの4条植えで栽培し調査しました。施肥は窒素成分、リン酸、加里をそれぞれ 1.5kg/a施用しました。
  3. 本試験では全農みやぎ出荷規格を参考に、調製重70g以上を出荷基準(1袋200g(入り目5%))とし、有効積算温度も同様の基準を設けて算出しました。なお、本シミュレーションは調製重のみに基づく結果であり、糖度8°以上の出荷基準は満たしているものと想定しました。
  4. 播種適期のシミュレーションでは、「農研機構メッシュ農業気象データ(The Agro-Meteorological Grid Square Data、NARO)(大野ら、2016)(https://amu.rd.naro.go.jp/)」を使用し、各市町村の庁舎(仙台市は区役所)の平均気温のデータ(平成26~令和5年)を取得して利用しました。
  5. 各地点の平均気温のデータを取得する際に必要な緯度、経度の情報は、「Google Map」を参考にしました。
  6. 本シミュレーションにより導き出した播種晩限の目安は、各地点の気温データのみにもとづいて算出したものであり、地温や降水量、日射量の影響は考慮していません。
関連情報
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R5参考資料
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担当部署
農業・園芸総合研究所 野菜部(電話:022-383-8124)

 宮城県農業・園芸総合研究所
  (企画調整部 企画調整チーム)
  〒981-1243 宮城県名取市高舘川上字東金剛寺1
  TEL:022-383-8118
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