試験研究の成果

イチゴの培地加温に利用可能な木質バイオマスボイラー

分  野
野菜
品  目
イチゴ
技術概要
 冬期の施設園芸品目であるイチゴは、化石燃料を利用した加温設備が主に使用されており、COの排出源となっています。また、近年の化石燃料の高騰は、経営上大きな課題となっています。
 「みどりの食料システム戦略」において、令和32年までに農林水産業のゼロエミッション化が掲げられており、現場で導入可能な実用性の高い新たな加温システムの構築が求められています。
 そこで、カーボンニュートラルな木質バイオマスに着目し、薪を主な燃料とするエーテーオー(株)のウッドボイラーS-220NSB(以下、ウッドボイラー)を選定しました。ウッドボイラーをイチゴの培地加温に利用した際の生育・収量への影響を調査して、良好な成績が得られました。

  1. ウッドボイラーは、燃料として木質燃料と灯油の併用が可能で、夕方に貯湯槽のお湯を薪燃焼で沸かし、培地温度が下がる夜間に温湯を施設内に自動循環させ、培地を加温することができまする。燃料の薪が尽き、貯湯槽の温度が下がった場合でも、灯油バーナーによって自動で補助加温することが可能です。薪焚き室を貯湯槽が覆う構造のため、本体表面が高温にならず、安全性も高いです(図1)。

    図1 ウッドボイラーS-220NSB(左:正面、右:背面)


  2. 培地温度15℃設定で11月から翌年2月にかけて培地加温する場合、ウッドボイラーは慣行体系(灯油ボイラー)と比べ、1作における10a当たり燃料合計金額を慣行対比78.5%、10a当たりCO排出量を慣行対比33.2%に抑えることができます(表1)。
     表1 培地加温でのウッドボイラーと灯油ボイラーの10aあたり燃料使用量、CO排出量
    培地加温 燃料使用量 合計金額
    (円/10a)
    CO排出量
    (kg/10a)
    慣行比較
    薪使用量
    (kg/10a)
    灯油使用量
    (L/10a)
    合計金額
    (%)
    CO排出量
    (%)
    ウッドボイラー 3,173 848 253,497 2,111 78.5 33.3
    灯油ボイラー
    (慣行)
    0 2,551 322,759 6,353
    ※灯油ボイラー:ウッドボイラーの燃料使用量から1作あたりの培地加温に必要な熱量を割り出し、灯油使用量を単位発熱量で割り出した換算値。
     単位発熱量は、薪:19.6MJ/kg(ナラ)、灯油:36.5MJ/L。

  3. ウッドボイラーは、高設養液栽培システム内の温湯管に接続することで培地加温が可能となります。培地温度15℃設定でウッドボイラーを利用すると、培地加温を行わない区と比較して、冬期でも草勢が強く維持でき、総商品果収量が「とちおとめ」で24%、「にこにこベリー」で14%増えます(図2、図3、図4、図5、表2)。

    図2 ウッドボイラーの培地加温効果の検証
    品種:にこにこベリー、左:ウッドボイラー加温区、右:無加温区



    図3 培地加温が「とちおとめ」の草高に及ぼす影響

    図4 培地加温が「にこにこベリー」の草高に及ぼす影響



    図5 ウッドボイラーの温湯加温が培地温度に及ぼす影響
    (令和4年1月18日から1月19日 培地温度:5cm深さ温度)


     表2 培地加温による10aあたり期間別商品果収量、平均1果重への影響
    試験区 商品果率
    果数対比
    (%)
    年内商品果収量(~12月) 早期商品果収量(~2月) 総商品果収量(~5月) 商品果
    平均1果重
    (g/果)
    収量
    (kg/10a)
    標準対比
    (%)
    収量
    (kg/10a)
    標準対比
    (%)
    収量
    (kg/10a)
    標準対比
    (%)
    とちおとめ
    培地加温区
    87.6 662 114 1,905 125 5,185 124 14.0
    とちおとめ
    無加温区
    87.3 581 1,528 4,165 14.3
    にこにこベリー
    培地加温区
    85.2 563 137 2,096 118 5,572 114 16.8
    にこにこベリー
    無加温区
    83.5 411 1,781 4,899 16.5
    ※商品果率:総果数及び総収量に占める商品果(5g以上の正常果と7g以上の乱形果)の割合。
    ※商品果収量:7,000株/10aでの換算値。

※利用上の留意点
  1. 使用する薪は、安価でかつ発熱量の高い広葉樹が望ましいです。本試験で利用した県内の森林組合の薪は、生木での購入となりますので乾燥に半年程度の時間が必要ですが、輸送費含め46.1円/kgと非常に安価です。試算上、薪は灯油(令和5年8月現在)と比較して、単価当たりの発熱量が高いです(図6、表3、表4)。

    図6 試験に使用した広葉樹の薪
    (撮影場所:石巻地区森林組合)
     表3 ウッドボイラーの10a当たり燃料使用量、金額
    期間 灯油 合計金額
    (円/10a)
    使用量
    (kg/10a)
    金額
    (円/10a)
    使用量
    (L/10a)
    金額
    (円/10a)
    11月 208 9,584 0 0 9,584
    12月 809 37,272 160 18,512 55,783
    1月 528 24,341 720 83,455 107,796
    2月 370 17,039 401 46,508 63,547
    合計 1,914 88,235 1,281 148,475 236,710
    ※使用量(10a):所内3.3a鉄骨ハウスでの使用実績からの推定値
    ※単価:薪:46.1円/kg、灯油価格:115.9円/L


     表4 薪単価、単価あたり発熱量試算
    燃料 販売価格
    (円、税込)
    単位 単価
    (円/kg)(円/L)
    単位発熱量
    (MJ/kg)(MJ/L)
    単価あたり発熱量
    (MJ/円)
    薪(広葉樹) 14,750 320kg(1m3) 46.1 19.6 0.43
    灯油 2,277 18L 126.5 36.5 0.29
    ※薪:石巻地域森林組合ウッドリサイクルセンター販売価格表
       重量は、購入時約400kg(生木)で乾燥時約320kg(水分率10~12%)、配送料1カゴ3,750円(8カゴ輸送で30,000円 石巻市から名取市まで輸送)
    ※灯油:民生用灯油(給油所小売価格)2,277円/18L(配達・税込)(令和5年8月16日現在 石油製品価格調査(資源エネルギー庁))
    ※単位発熱量:灯油 総合エネルギー統計エネルギー源別標準発熱量表(資源エネルギー庁)、
           薪 「ポジティブリストNo.E00x.薪ストーブにおける薪の使用」(環境庁)樹種は購入品に多く含まれる「ナラ」と仮定

  2. ウッドボイラーは、薪焚き室が200リットルと広いため、薪や樹皮、丸太など幅広い木質燃料に対応できます。薪焚き室内の薪への着火作業は手動となりますが、本体に送風機が付属しているため、新聞紙のような簡易な焚き付けで十分に着火できます。送風によって燃焼効率も高く、1日10kg程度の薪を燃焼させても灰の掃除は1か月に1回程度となります(表5、図7)。
     表5 ウッドボイラーS-220NSB 諸元表
      (エーテーオー(株)カタログ参考)
    外形寸法(mm) 610(幅)×1,160(奥行)×1,290(高さ)
    薪焚き室(mm) 480(幅)× 790(奥行)× 510(高さ)
    投入口(mm) 480×370
    薪焚き室容量(L) 200
    貯湯容量(L) 220
    熱源能力(kcal/h) 35,300~51,000
    煙突径(mm) φ140
    本体重量(kg) 95
    電源 100V

    図7 ウッドボイラーの薪焚き室
    (左:薪設置時、麦:燃焼時)


  3. ウッドボイラーの導入費は、設置費、電気工事費含め、一式で約206万円となります(表6)。
     表6 ウッドボイラーS-220NSB 部材表と導入費
    品名 数量 単価(円) 金額(円)
    薪ボイラー S-220NSB 1台 860,000 860,000
    熱交換器 20m 一式 72,000 72,000
    ミキシングバルブ(3/4)(26.6~82.2℃) 1個 75,000 75,000
    床暖コントローラー3000(SUSボックス付) 1個 82,000 82,000
    不凍液タンク(半密閉式膨張タンク付) 1個 64,000 64,000
    循環ポンプUPS-25 1個 98,000 98,000
    ボイラーコントローラー3000(SUSボックス付) 1個 85,000 85,000
    ウッドボイラー用灯油バーナー 1個 132,000 132,000
    灯油バーナー台 1個 18,000 18,000
    灯油タンク(200L) 1個 58,000 58,000
    送油鋼管(9.52n×5m巻) 一式 8,600 8,600
    煙突Φ139.8 半直筒(500L) 1本 7,400 7,400
    煙突エルボΦ139.8 90° 1個 14,600 14,600
    煙突フタ付十字曲がりΦ139.8 90° 1個 30,000 30,000
    煙突断熱資材(ワイヤードブラケット、貫通部プレート) 一式 100,000 100,000
    絶縁ユニオン(20A) 2個 9,600 19,200
    運賃、諸経費(電気工事、配管接続工事) 一式 152,300 152,300
    小計 1,876,100
    消費税(10%) 187,610
    合計 2,063,710
    ※単価は、エーテーオー(株)「ウッドボイラー標準価格表」(2024.1.21)を参考。
    ※接続する栽培設備(栽培槽、温湯管等)は上記に含まない。

  4. ウッドボイラーは、栽培施設内への設置も可能ですが、煙突がカーテンや内張等に干渉するため、厳冬期に凍結する恐れがない前室への設置が望ましいです。ウッドボイラーは、底部が薪焚き室の直下で高温となるため、床面が燃えやすい素材の場合はコンクリートブロック上に設置するなどして床面と触れないよう留意してください。

  5. 本試験は、宮城県農業・園芸総合研究所内の鉄骨ハウス(施設面積3.3a)内の高設栽培システム(ココベリーファーム(カネコ種苗(株))、ヤシガラ培地)を培地加温した際の試験結果です。加温設備として、培地加温とは別に重油温風暖房機を用いて最低温度8℃設定で施設内を加温しました。
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R5普及技術
556KB
担当部署
農業・園芸総合研究所 野菜部(電話:022-383-8124)

 宮城県農業・園芸総合研究所
  (企画調整部 企画調整チーム)
  〒981-1243 宮城県名取市高舘川上字東金剛寺1
  TEL:022-383-8118
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